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福井地方裁判所武生支部 昭和46年(ワ)74号 判決 1977年3月30日

原告

稲津剛

被告

昭和建設株式会社

主文

被告は原告に対し金一、二七三、八九〇円及びこれに対する昭和四六年一二月二三日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを七分し、その五を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

この判決一項は原告が金四〇〇、〇〇〇円の担保をたてたときは仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

被告は原告に対し金四、六五九、八三一円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言

二  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  事故の発生

原告はつぎの交通事故により傷害を蒙つた。

1 日時 昭和四六年四月一日午後五時ころ

2 場所 鯖江市長泉寺一丁目旧国道路上三差路

3 加害車 普通自動車(福井五ふ五一一八)

4 右運転者 村上広昭(被告従業員)

5 被害者 原告(歩行者)

6 事故の態様 加害車は、本件事故現場附近を北方に向け進行中、同交差点が左右の見とおしの悪い交差点であり、かつ進路前方交差点の手前左側に他の自動車が停止していたのに、徐行しないまゝ、停止中の自動車の右側から交差点に進入した。被害者は、犬(竹部昇所有)に追われて西方から同交差点に入り、停止中の自動車の前面を通過した。その直後加害車はその前部で被害者をはねとばし路面に叩きつけた。

7 結果 原告は、そのために頭部挫傷、右大腿骨、左下腿骨骨折の重傷を受けた。

(二)  被告の責任

被告は加害車の運行供用者であるから、前記事故に基づく損害につき賠償の義務を負う。すなわち、被告は加害車を事故前からその営業のため使用しており、右事故の際には被告に勤務する村上広昭が被告の業務として運転していた。

(三)  損害

1 原告の受傷の程度及び治療状況

(1) 昭和四六年四月一日から同年一一月一〇日まで

木村病院入院 二二四日間(要付添)

(2) 同年一一月一一日から同年一二月三一日まで

同病院通院 五一日間(実通院四一日間・要付添)

(3) 同四七年三月二八日から同年四月七日まで

同病院再入院 一一日間(要付添)

(4) 同年四月一〇日から同四八年六月二〇日まで

橋本整形外科診療所通院 四三七日間(実日数二二九日間要付添)

(5) 同年六月二六日右橋本整形外科診療所でつぎのとおり症状固定(後遺症)の診断を受けた。

イ 右大腿骨骨折による骨延長、左下腿骨骨折による骨延長

ロ 露出部の手術瘢痕(右大腿外側に直線状二〇センチのもの、左下腿前面に彎曲状一八センチのもの)

ハ レントゲンで判る程度の長管骨変形、右大腿骨の軽度彎曲

2 治療費 金五三一、八三一円

木村病院分 金五〇九、五三五円

橋本整形外科診療所分 金二二、二九六円

3 入院雑費 金七〇、五〇〇円

入院日数二三五日につき一日三〇〇円

4 付添費用 金五〇五、〇〇〇円

入院日数二三五日ならびに実通院日数二七〇日につき一日一、〇〇〇円

5 通院費 金二二、五〇〇円

昭和四七年四月一〇日から同年七月末日まで計六二回の往復料金(母の付添を要した)五、五八〇円と同年八月一日から同四八年六月二〇日まで計一六六回の往復料金(母の付添を要した)一九、九二〇円

6 逸失利益 金一、六三〇、〇〇〇円

原告は、事故前身心ともに健康な七歳(小学二年生)の少年であつた。前記事故がなければ、一一年後(一八歳)から五六年後(六三歳)まで稼働して、人並の収入をあげえたはずである。ところが右事故による前記後遺症のため就労の可能性は制限された。その逸失利益を後遺症の労働能力喪失率によつて算定する。前記後遺症は自賠責障害等級一三級八号に該当し、その労働能力喪失率は九%である。昭和四六年度全国労働者平均給与月額金八五、一二〇円を基礎としホフマン式でその現価を求めると約金一、六三〇、〇〇〇円となる。

7 慰藉料 金二、〇〇〇、〇〇〇円

原告の前記長期の治療態様および後遺症を綜合すると原告の苦痛を慰謝するには少なくとも金二、〇〇〇、〇〇〇円の慰藉料が相当である。

(四)  損害填補および残額

原告は自賠責保険から仮渡金一〇〇、〇〇〇円、付添費用等金五二、八二〇円、治療費金三四七、一八〇円を受給した。これらを損害金四、七五九、八三一円から控除するとその残額は金四、二五九、八三一円となる。

(五)  弁護士費用 金四〇〇、〇〇〇円

(六)  よつて原告は被告に対し前記事故による損害賠償として金四、六五九、八三一円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日以降完済に至るまで年五分の遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁並びに被告の主張

(一)  請求原因(一)のうち、原告主張の日時ころに被告従業員村上広昭の運転する車両と原告との間に交通事故が発生したことは認めるが、その余は否認する。

同(二)は否認する。

同(三)、(五)は不知ないし争う。

(二)  原告は、本件道路を横断するに際し、停止中の自動車の直前直後を回避して、左右の交通安全をよく確かめてから横断を開始すべき注意義務があつたのに、これを怠り、左右の安全を確認することなく、かつ北進して来る村上広昭運転の車両の接近にも気付かず、停止中の自動車の陰から飛び出して横断を開始したことによつて前記事故を招いたものである。したがつて原告には重大な過失がある。

(三)  原告の両親は、附近に本件事故現場である車両交通量の多い旧国道があるのに、児童である原告の動静に注意をはらうことなく、原告を同年齢位の子供らと遊ばせて放任していた。しかも右両親はかねて近所に吠えて追いかけて来る性癖の犬がいることを承知していたのであるから、右周囲の状況と合せて、本件の如き事態が発生するかも知れないということを考えて、原告に対してしかるべき配慮をなすべきであつたのに、これをしなかつた。したがつて右両親には重大な過失がある。

(四)  原告が本件現場に飛び出したのは、犬にほえられて無我夢中で走つて逃げたためである。したがつて右犬の飼主である竹部昇において本件事故発生につき最も直接的な原因を生成したというべきであり、同人が前記事故の最も主位的な責任者というべきである。

(五)  村上広昭は普通自動車を運転して、直線かつ平担な幅員約六メートルの旧国道上を制限速度内の極めて控え目な速度である時速二〇ないし三〇キロメートルで北進中であつた。右村上は本件事故現場に差しかかる際にも前方を注視しながら接近し、何ら法規に反するところがなかつた。原告が西方小路より犬に追われて接近する姿はもとより知り得べき状況になく、したがつてその動静について注意をはらつて具体的場合に対処すべき措置が必要とされる状況ではなかつた。右村上には飛び出した原告の姿を発見するについて何ら遅滞した事実はなく、かつ発見した瞬間に採つた措置もまた万全であつた。すなわち右村上は原告を発見すると同時に右足で力いつぱい急制動の措置をとり衝突と同時に自己の車を停止させている。また道路幅が狭いので左右どちらにも避けられなかつた。他方原告は右村上が急制動して事故回避に努めているのに、走つて横断し、続け右村上運転車両の前に飛び出して来た。右村上としては、かかる交通の頻繁な主要幹線道路上にかくも突然に人が進出して横断するような異常な事態を予見し得るはずがなく、またかかる事態までも予測して車両を運転することはとうてい不可能であり、そのような注意義務を運転者にかすることはできない。

前記(二)ないし(四)記載の原告らの過失こそ本件事故を招来した決定的な原因であつて、右村上には前記事故の発生について過失はなく、右村上の車両運転と右事故発生との間には因果関係もない。

(六)  仮に右村上に過失があるとしても、賠償額算定にあたつては前記原告らの過失を参酌すべきである。

(七)  仮に被告に賠償責任があるとしても、原告は昭和四七年七月前記竹部との間にて和解をなし、金三〇〇、〇〇〇円の支払を受けて、前記事故によるその余の損害賠償請求権なきことを確認している。同人は前記のとおり右事故の主位的責任者であるから、同人に対する責任の免除は、被告に対しても効力を生ずる。

(八)  原告は前記事故による損害の填補としてつぎの金員の支払を受けている。

1 昭和四六年一二月二八日仮処分執行により金一二一、六五五円

2 犬の飼主から受領した金三〇〇、〇〇〇円

3 自賠責保険金五〇〇、〇〇〇円

4 後遺症障害に対する保険金三四〇、〇〇〇円

三  被告の主張に対する答弁

被告主張(五)は否認する。

同(七)のうち、竹部との間に和解がなされ、金三〇〇、〇〇〇円を受領したことは認めるが、その余は否認ないし争う。

同(八)は認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  (事故の発生)

昭和四六年四月一日午後五時ころ被告従業員村上広昭の運転する車両と原告との間に交通事故が発生したことは当事者間に争がない。そしていずれも成立について当事者間に争のない甲第一ないし第六号証、第一〇号証、第二二、第二三号証、第四三号証、証人村上広昭の証言(第一回)、検証の結果によると、本件事故現場は鯖江市長泉寺町一丁目四ノ五番地先道路上であること、本件事故現場附近の道路は南北に通ずる幅員約五メートルの旧国道でアスフアルト舗装がなされており、道路の両側は商店、民家が建並ぶ繁華街であること右道路両側には、そこに出るための幅員約一・五メートルないし三・五メートルの通路や路地が接しており本件事故現場を中心に南北各一〇〇メートルの間に西側には七本、東側には五本の小路があり、その附近は時速三〇キロメートルの速度制限がなされていたこと右村上は普通乗用自動車を運転して時速約二七・八キロメートルで進行中、進路前方左端に普通トラツク等の駐車々両があつたため、右トラツクの前方に対する見通しがきかず、道路右側に自動車一台が通行できるだけの余裕しかない情況であつたのに、右速度のまゝ道路右側に出て右駐車車両の右側を通過しようと進行していたところ、右駐車中のトラツクの直前から自己の進路上に飛び出して来た原告を前方約八メートルに発見し、原告との衝突を避けるため、道路の情況から左右に避ける余地がなかつたので、直ちに急制動の措置をとつたが及ばず、約三・五メートルのスリツプ痕を残して停止する直前に自車を原告に衝突させ、原告を路上に転倒させて、原告に対し頭部挫傷、右大腿骨、左下腿骨骨折の重傷(以下単に本件傷害という。)を負わせたことが認められる。右事実によると右村上は、見通しのきかない右トラツクの前方から人等が出て来ることを予測して、速度を落して時速二〇キロメートル以下で走行すべきであつた(時速二〇キロメートルの普通乗用車の急制動によつて停止できる距離は約六メートルであることは当裁判所に明らかである。)のに、これを超える時速約二七、八キロメートルの速さで走行した過失によつて、本件事故を惹起させたというべきである。

二  (責任事由)

前掲甲第四号証、証人村上広昭の証言(第一、第二回)、被告代表者尋問の結果によると、右村上は被告の従業員であり、現場監督として人夫の手配等をしていたこと本件事故時右村上が運転していた加害車両は同人所有名義のものであつたが、それは同人の通勤あるいは現場に行くために使用され、また職人等を現場に乗せていくためにも、被告所有車七に対し三の割合ぐらいで使用されていたこと、それで同車のガソリン代や修理代のある部分は被告が負担していたこと本件事故は、右村上がその勤務時間中、被告の仕事現場に行く途中で発生したものであることが認められる。右事実によると被告は右村上所有名義の加害車両を自己の事業のために使用して、これをその運行の用に供していたものであり、自己の従業員である右村上がその事業の執行中に本件事故を惹起させて、原告に本件傷害を負わせたというべきであるから、原告に対し本件事故により原告の蒙つた損害を賠償する義務がある。

三  (財産上の損害)

(一)  いずれも成立について当事者間に争のない甲第九ないし第一七号証、第二二号証、第二四号証、第二六号証の一、二、第二七号証の一ないし三、第二八、第二九号証の各一、二、第三〇号証、第三一号証の一、二、第三二ないし第四二号証、第四四号証、原告法定代理人両名の各尋問の結果によると、原告は本件傷害の治療のため、昭和四六年四月一日から同年一一月一〇日までの二二四日間木村病院に入院して、同年一一月一一日から同年一二月三一日までの五一日間に四一日間にわたつて同病院に通院して、翌四七年三月二八日から同年四月七日までの一一日間再度同病院に入院して、同年四月一〇日から翌四八年六月二〇日までの四三七日間に二二九日間にわたつて橋本整形外科診療所に通院して、それぞれ加療を受けたこと原告は右全治療期間付添看護を必要とし、その間母の看護を受けたこと、木村病院の右治療に要した治療費合計は金五〇九、五三五円であり、橋本整形診療所から右治療につき原告が請求された治療費合計は金二二、二九六円であつたこと原告は、昭和四八年六月二六日橋本整形外科診療所において、本件傷害によりつぎの後遺症を残されて症状固定したとの診断を受けたこと後遺症の内容は、イ 右大腿骨骨折による骨延長、左下腿骨骨折による骨延長、ロ 露出部の手術瘢痕として右大腿外側に直線状二〇センチのものと左下腿前面に彎曲状一八センチのもの、ハ 長管骨変形、右大腿骨の軽度の彎曲であり、これにより自賠責保険障害等級一三級の認定を受けたこと原告は本件事故当時満七歳の心身共に健康な小学生であつたのに、本件傷害のため学校を長期にわたり休まざるを得なくなり、基礎学力を十分につけられなかつたことが認められる。

(二)  右事実によると原告は本件事故によりつぎのとおり合計金二、七五九、八三一円の財産上の損害を蒙つたというべきである。

1  治療費 金五三一、八三一円

木村病院分 金五〇九、五三五円

橋本整形外科診療所分 金二二、二九六円

2  入院雑費 金七〇、五〇〇円

一日当り金三〇〇円の入院日数二三五日分

3  付添費用 金五〇五、〇〇〇円

一日当り金一、〇〇〇円の入院日数二三五日並びに実通院日数二七〇日分

4  通院費 金二二、五〇〇円

成立について当事者間に争のない甲第四五号証、原告法定代理人稲津雅子の尋問の結果及び弁論の全趣旨によると原告は本件傷害の治療のため母に付添われて市バスで橋本整形外科診療所に通院したこと右市バスの往復運賃は、六二回分は大人金六〇円、小人金三〇円であり、一六六回分は大人金八〇円で、小人金四〇円であつて、その合計額は金二二、五〇〇円以上であることが認められる。

5  逸失利益 金一、六三〇、〇〇〇円

原告は本件事故当時健康な満七歳の少年であつたことは前記認定のとおりであり、厚生省第一二回生命表、賃金センサス昭和四六年第一巻第二表、労働基準監督局長通牒(昭和三二・七・二基発第五五一号)によると原告は、事故から一一年後(一八歳)から同五六年後(六三歳)まで稼働して人並の収入、すなわちその間平均して昭和四六年度全国労働者の平均給与年額金一、一七三、八〇〇円の収入をあげえたであろうこと原告は本件事故により九%の労働能力を喪失したことが認められる。右事実にもとづき、原告の本件事故による逸失利益の事故当時の現価をホフマン法により算出すると金一、六三〇、〇〇〇円以上となることは計算上明らかである。

四  (過失相殺)

前掲甲第一号証、第四、第五号証、証人村上広昭、同竹部昇の各証言、原告法定代理人稲津雅子の尋問の結果によると原告は本件事故当時、両親にともなわれて、母の実家である本件事故現場の近くにある鯖江市長泉寺一丁目一の六の八に来てそこに滞在していたこと同家の近所の竹部昇の家では犬を飼つており、右犬は人に吠えつく性癖があつたことこれは近隣でも知られており、原告も母親からこれを知らされていつもは庭で遊んでいたが、当日は右犬の姿が見えないので、同年輩の従兄弟二人と近所の路上に出て遊んでいたことそこえ右犬が出て来て原告らに吠えつき、逃げる原告らを追いかけたので、原告はこれを恐れて前記旧国道へ通じる小路を走つて逃げ、道路情況に気をくばることなく、右国道に出、前記駐車中のトラツクの直前を通つて右道路右側部分に飛び出し、右村上運転車両に衝突したこと一緒に遊んでいた他の二人は他所へ避難したこと右竹部は、右犬が右性癖があることを知りながら、当時これを鎖につなぐ等して他所へ出歩くことのないように手当をほどこすことなく、放置していたことが認められる。右事実によると、本件事故の発生につき原告らにも落度があつたというべきであり、また右竹部は右犬を放し飼にすべきでないのに、これを放置していたために本件事故が発生したというべきであるから、本件事故の発生につき右竹部にも過失があつたというべきである。

ところで、被告が本件事故により原告に対して支払うべき賠償額を定めるにあたつては前記原告らの落度も斟酌して定めるべきであり、これを斟酌するとその賠償額は前記損害額金二、七五九、八三一円の約六割五分に当る金一、七九三、八九〇円と定めるのが相当であると認める。

五  (慰藉料)

原告の受けた傷害、後遺障害の程度、本件事故の態様、原告らの落度、後記竹部昇に対する債務免除、その他前記認定の諸事実を合せ考えると、被告が本件事故により原告に対して支払うべき慰藉料額は金五〇〇、〇〇〇円が相当である。

そうすると被告は原告に対し本件事故による損害賠償として財産上の損害金一、七九三、八九〇円と慰藉料金五〇〇、〇〇〇円との合計金二、二九三、八九〇円を支払うべきである。

六  (損害填補)

原告が本件事故による損害の填補として、(1)昭和四六年一二月二八日仮処分執行により金一二一、六五五円、(2)犬の飼主から受領した金三〇〇、〇〇〇円、(3)自賠責保険金五〇〇、〇〇〇円、(4)後遺症障害に対する保険金三四〇、〇〇〇円の金員の支払を受けていることは当事者間に争がない。右(2)ないし(4)の合計金一、一四〇、〇〇〇円は前記金二、二九三、八九〇円から差し引かれるべきものであり、(右(1)の金額の支払は仮処分の執行によりなされたものであるから、右金額は本訴請求額からは差し引かれるべきものではない。)その差引残額は金一、一五三、八九〇円である。

七  (債務免除)

次に被告の免責の主張(被告主張(七)記載のもの)について判断する。

本件事故の発生について前記竹部にも過失があつたことは前認定のとおりであるから、右竹部においても共同不法行為者として本件事故により原告の蒙つた損害を賠償する義務があるというべきである。

共同不法行為者間の責任は不真正連帯債務であると解すべきであるから、被害者が共同不法行為者の一人に対して、和解等により債務免除をしたとしても、特別の事情すなわち被害者において、和解等の当時、窮極的な損害の負担者を知つていたり、あるいは共同不法行為者の各負担部分を知り得べき状態であり、その結果共同不法行為者の一人と和解等をすることにより、損害賠償額全額が減額される結果となることを知りながら、紛争の一挙解決を図るため一人の当事者と和解等して、同人に対し債務免除をする等の事情がない限り、その効力は他の共同不法行為者の責任に及ばないと解すべきである。

ところで原告は昭和四七年七月右竹部との間に和解をし、同人から金三〇〇、〇〇〇円を受領したことは当事者間に争がない。そして成立につき当事者間に争のない甲第四六号証によると、原告は右和解において右竹部に対し、本件事故による賠償額のうち右金三〇〇、〇〇〇円を超える部分は債務免除したことが認められる。しかし右事実から直ちに右特別の事情の存在を認定することはできないし、他に右事情の存在を認定するに足る資料はない。したがつて被告の右主張は採用できない。

八  (弁護士費用)

本訴認容額その他本件に現われた一切の事情を考慮すると弁護士費用のうち金一二〇、〇〇〇円は本件事故と相当因果関係のあるものとして、被告に賠償させるのを相当と認める。

九  (結論)

以上の次第であるから、被告は原告に対し本件事故による損害賠償として金一、二七三、八九〇円(六記載の金一、一五三、八九〇円に八記載の金一二〇、〇〇〇円を加えた額)及びこれに対する昭和四六年一二月二三日(本訴状送達の翌日――本件記録上明らかである。)以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払うべき義務がある。

よつて、本訴請求は、そのうち右認定の限度では理由があるからこの範囲でこれを認容し、その余の部分は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言については同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 水谷厚生)

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